あなたは「もしもの時」について考えたことはありますか?
それは、決して縁起の悪い話ではありません。むしろ、残される大切な家族のために、そして何より自分自身のために、一度は真剣に向き合っておきたいテーマです。
「延命治療は望む?望まない?」「お葬式はどんな形式がいい?」「財産のことはどうなっているんだろう?」「あの趣味の道具、誰か使ってくれるかな?」…考えてみれば、気になることはたくさんありますよね。
これらの「もしも」の疑問や、あなたの「こうしたい」という希望を、一冊のノートに書き留めておくこと。それが**「エンディングノート」**です。
エンディングノートは、遺言書のような法的な効力はありません。しかし、あなたの人生の軌跡、価値観、そして未来への願いを書き記すことで、残された家族が迷わないための羅針盤となり、あなた自身の人生を豊かに締めくくるための強力なツールとなります。
この記事では、
- エンディングノートとは何か?なぜ今、多くの人が書き始めているのか?
- エンディングノートに「これだけは書いておきたい」具体的な内容
- 無理なく、楽しく書き進めるためのとっておきの方法
- 書いただけで終わらせない!エンディングノートを最大限に「活用」するポイント
といった内容を、初心者の方にも分かりやすく、そして書くことに前向きになれるような視点でお届けします。
この記事を読み終える頃には、「私もエンディングノートを書いてみようかな」「もっと自分の人生を大切にしたい」そう思っていただけるはずです。ぜひ最後までお付き合いください。
エンディングノートって、ぶっちゃけ何?なぜ今注目されているの?
「エンディングノート」という言葉は聞いたことがあるけれど、具体的にどんなものかよく分からない、という方もいらっしゃるかもしれません。
簡単に言うと、エンディングノートとは**「自分の人生の最終章に向けて、様々な希望や情報を自由に書き残すノート」**です。
遺言書は「財産の相続」など、法的な効力を持つ事柄に特化していますが、エンディングノートはもっと自由で、多岐にわたる内容を記述できます。あなたの「人となり」や「想い」を伝えることに重きを置いていると言えるでしょう。
なぜ今、エンディングノートが注目されているのか?
その背景には、いくつかの社会的な変化があります。
- 超高齢社会の到来: 人生100年時代と言われ、人生の終末期について考える時間が増えました。医療や介護に関する自身の希望を明確にしておきたいというニーズが高まっています。
- 核家族化・少子化: かつてのように大家族で助け合う形が少なくなり、一人ひとりが将来への備えを意識する必要が出てきました。
- 情報化社会とデジタル遺品: インターネットやSNS、オンラインサービスが普及し、デジタル資産の整理や死後の管理が課題となっています。
- 「終活」への意識向上: 人生の終わりを見据え、残りの人生をより良く生きるための活動「終活」が一般的に認知されるようになりました。エンディングノートはその一環として取り組む人が増えています。
- 「自分らしい終わり方」への関心: 画一的な人生の終わり方ではなく、自身の価値観に基づいた医療、介護、葬儀、供養の方法を選びたいという希望を持つ人が増えています。
エンディングノートを書くことは、こうした変化に対応し、あなたが望む形で人生を締めくくり、そして大切な人に無用な負担をかけないための、とても有効な手段なのです。
書くことのメリットは無限大!エンディングノートがあなたにもたらすもの
エンディングノートを書くことは、「もしもの時」のためだけではありません。
書く過程で得られるメリットは、計り知れません。
- 心の整理ができる: これまでの人生を振り返り、自分の価値観や大切にしてきたものを再確認できます。人生の棚卸しは、自己理解を深める素晴らしい機会です。
- 未来への不安が軽減される: 漠然とした将来への不安も、「こうしたい」という希望を具体的に書き出すことで、「大丈夫だ」という安心感に変わります。
- 意思表示ができる: 医療や介護、財産のことなど、自分の希望を明確に伝えることができます。これにより、意に沿わない処置を避けたり、家族間の無用なトラブルを防いだりできます。
- 残される家族への最大の配慮: あなたの意志が明確になっていれば、家族は迷ったり悩んだりする時間を減らし、あなたの意思を尊重した行動がとれます。これは、残された家族にとって何よりの救いになります。
- 「今」をより良く生きるヒントになる: 自分の人生の終着点を見据えることで、「今」をどう生きるべきか、何に時間やエネルギーを使うべきかが見えてきます。
- 自己肯定感が高まる: 自分の人生と向き合い、未来への準備をすることで、「自分はきちんと人生を歩んできた、そして未来のことも考えている」という肯定的な気持ちになれます。
エンディングノートは、「死」について考えるネガティブな作業ではありません。むしろ、これからの人生をより良く生きるための、そして大切な人との絆を再確認するための、非常にポジティブな取り組みなのです。
さあ、何から書こう?エンディングノートに書くべき具体的な内容
エンディングノートには、決まった形式や書かなければならない項目はありません。自由に、あなたの書きたいことから書き始めて大丈夫です。
とはいえ、「何から書けばいいの?」と迷ってしまう方もいらっしゃると思います。そこで、多くのエンディングノートで項目として挙げられている、書いておくと役立つ具体的な内容をご紹介します。
1.基本情報
- 氏名、生年月日、現住所
- 本籍地
- 血液型、アレルギー
- かかりつけ医、常備薬
- 緊急連絡先(家族以外で確実に連絡が取れる人)
これは、もしもの時に家族や関係者が最初に必要とする情報です。正確に記入しておきましょう。
2.自分史・略歴
- 生まれた場所、育った場所
- 学歴、職歴
- 趣味、特技
- 大切にしてきたこと、価値観
- 印象に残っている出来事、人生のターニングポイント
- 家族への想い、感謝の言葉
これは、あなたという人間を家族に伝えるための大切な項目です。改めて自分の人生を振り返る良い機会にもなります。「自分はこんな人生を歩んできたんだよ」と、未来の家族に語りかけるような気持ちで書いてみましょう。
3.医療・介護について
- 延命治療についての希望(どこまで望むか、望まないか)
- 最期を迎えたい場所(自宅、病院、ホスピスなど)
- 希望する医療・ケアについて
- 介護が必要になった場合の希望(誰に、どこで、どのような介護を受けたいか)
- かかりつけ医や信頼できる医療機関の情報
- 臓器提供・献体の意思
これは、あなたの尊厳を守るために非常に重要な項目です。ご自身の意思を明確にしておくことで、家族が難しい判断を迫られる負担を軽減できます。できれば、家族とも事前に話し合っておくと、よりスムーズです。
4.財産について
- 預貯金: 金融機関名、支店名、口座番号、名義、印鑑の保管場所
- 有価証券: 証券会社名、口座番号、所有している株式や投資信託などの情報
- 不動産: 所在地、地番、家屋番号、権利証の保管場所
- 生命保険・医療保険: 保険会社名、証券番号、受取人
- その他: 貸付金、借入金、貴金属、骨董品、美術品、車、バイクなど
- デジタル資産: ネット銀行、ネット証券、オンラインサービス、クラウドストレージ、SNSアカウントなどのID・パスワード、管理方法
- 財産の一覧表の保管場所
財産に関する情報は、家族が相続手続きを進める上で最も労力がかかる部分の一つです。エンディングノートに一覧としてまとめておくだけで、家族の負担は格段に減ります。通帳や権利証などの保管場所も忘れずに記入しましょう。特に、デジタル資産は本人以外が把握しづらいので、パスワード管理を含め、しっかり記載しておくことが重要です。
※ただし、エンディングノートに書いた財産の分け方は法的な効力はありません。特定の財産を特定の人に確実に相続させたい場合は、別途「遺言書」を作成する必要があります。
5.葬儀・お墓について
- 葬儀の形式: 密葬、家族葬、一般葬、直葬、音楽葬など、希望する形式
- 宗派、菩提寺
- 希望する場所、葬儀社
- 呼んでほしい人、連絡してほしくない人
- 遺影に使ってほしい写真
- 棺に入れてほしいもの
- お墓について: 建立済みのお墓の情報、新規購入の希望、永代供養、樹木葬、散骨など、希望する供養方法
- 墓地・霊園の情報、契約書の保管場所
葬儀やお墓に関する希望も、人それぞれです。事前にあなたの意思を伝えておくことで、家族があなたの望む形でお見送りの準備ができます。費用についても目安を記載しておくと、家族が準備しやすくなります。
6.大切な人へのメッセージ
- 家族、親戚、友人、お世話になった人への感謝の言葉
- 伝えたい想い
- 形見分けの希望(誰に何を譲りたいか)
エンディングノートの中でも、最も「あなたらしさ」が表れる項目かもしれません。これまでの感謝の気持ちや、伝えきれなかった想いを率直に綴ってみましょう。きっと、残された家族や友人の心を温める宝物になります。
7.ペットについて
- 飼っているペットの種類、名前、特徴
- 将来、世話を頼みたい人(了解を得ているか)
- ペットの食事、病歴、かかりつけ医などの情報
- ペットの世話にかかる費用の目安
- ペットへのメッセージ
大切な家族の一員であるペットのことも、忘れずに記載しましょう。あなたが世話できなくなった後に、安心して暮らせるように、必要な情報や希望を詳しく書いておくことが重要です。
8.その他
- パソコン、スマートフォンのデータ、パスワードの取り扱い
- インターネットサービスの解約方法
- クレジットカード、公共料金などの情報
- 各種契約(サブスクリプションなど)の情報と解約方法
- 著作権、事業承継について
- 伝えておきたいこと、お願いしたいこと
現代社会では、こうしたデジタル関連の情報整理も欠かせません。あなたが亡くなった後、家族が困らないように、必要な情報と手続き方法をまとめておきましょう。その他、個人的に伝えておきたいことや、家族へのお願いなども自由に追記できます。
これらの項目はあくまで例です。ご自身の状況や考えに合わせて、必要な項目を選んだり、独自の項目を追加したりして、あなただけのエンディングノートを作成してください。
無理なく続ける!エンディングノートの書き方のポイント
「さあ、書こう!」と思っても、「何から始めればいいの?」「全部書かなきゃダメ?」と尻込みしてしまうかもしれません。
でも、大丈夫です。エンディングノートは、あなたのペースで、自由に書くのが一番です。完璧を目指す必要は全くありません。書き方のポイントをいくつかご紹介します。
1.自分に合った「カタチ」を選ぶ
エンディングノートには、様々な種類があります。
- 市販のノート: 様々な項目があらかじめ印刷されており、ガイドに沿って書き進めやすいのが特徴です。書店やネット通販で手に入ります。
- お気に入りのノート: 自由な形式で書きたい方には、お気に入りのノートを使うのも良いでしょう。
- 自治体や企業の配布物: 無料で配布されている簡易的なものもあります。
- PCソフトやアプリ: データで管理したい方、修正を頻繁に行いたい方には便利です。ただし、家族がデータにアクセスできるかどうかの確認が必要です。
大切なのは、「これなら続けられそう」「書いてみたい」と思えるものを選ぶことです。
2.まずは「書きたいこと」から始めてみる
最初から全ての項目を埋めようと意気込む必要はありません。
「これだけは書いておきたい」という項目、例えば「家族へのメッセージ」や「お葬式の希望」など、特に伝えたいことから書き始めてみましょう。書き始めれば、自然と他の項目も埋めたくなってくるものです。
3.完璧を目指さない!書き直しはいつでもOK
一度書いたら修正できない、ということはありません。エンディングノートは、あなたの人生の変化に合わせて、いつでも書き直し、追記できます。むしろ、定期的に見直して更新することが推奨されます。
最初から完璧を目指さず、「とりあえず書いてみよう」くらいの軽い気持ちで取り組んでみてください。
4.スキマ時間を活用する
「まとまった時間が取れないから書けない」という方もいるかもしれません。でも、一日数行でも、一週間に一度でも、スキマ時間を活用して少しずつ書き進めることができます。
例えば、寝る前に数分だけ、休日の午前中に少しだけ、といったように、生活の一部に組み込んでみましょう。
5.楽しく書く工夫をする
義務のように感じてしまうと、書くのが億劫になってしまいます。
お気に入りのペンを使う、好きな飲み物を飲みながら書く、BGMを流すなど、書く時間そのものを楽しめるような工夫をしてみましょう。カラーペンを使ったり、写真を貼ったりするのもおすすめです。
エンディングノートは、あなたの人生を振り返り、未来に想いを馳せるクリエイティブな時間です。肩の力を抜いて、リラックスして取り組んでください。
書くだけで終わらせない!エンディングノートの「最強」活用ポイント
エンディングノートは、「書くこと」と同じくらい、あるいはそれ以上に「活用すること」が重要です。せっかく書いたのに、誰にも見てもらえなかった、存在を知られなかった、ではもったいないですよね。
エンディングノートを最大限に活かすためのポイントをご紹介します。
1.家族に「エンディングノートを書いたこと」を伝える
これが最も重要なポイントです。どんなに素晴らしい内容を書いても、その存在を家族が知らなければ意味がありません。「エンディングノートを書いたよ」「どこに保管しているよ」と、信頼できる家族に伝えておきましょう。
可能であれば、内容の一部について話し合っておくと、家族の理解も深まります。
2.分かりやすい場所に「保管」する
エンディングノートの保管場所は、家族がすぐに見つけられる場所が理想です。ただし、誰でも簡単に手に取れる場所ではなく、信頼できる家族だけが知っている安全な場所を選びましょう。
例えば、家庭内の金庫、引き出しの奥、権利証などと一緒に保管するなどです。「エンディングノートはここにあります」と書いたメモを、目につく場所に貼っておくのも良いでしょう。
3.保管場所を「複数」の人に伝えておく
万が一、エンディングノートの存在を伝えた家族が病気になったり、あなたより先に亡くなったりすることも考えられます。複数の信頼できる家族や、可能であれば親しい友人などにも、保管場所を伝えておくと安心です。
4.「定期的に見直し・更新」する
あなたの人生は、これからも変化し続けます。考え方が変わることもあるでしょうし、財産状況や家族構成が変わることもあります。
エンディングノートは一度書いたら終わりではなく、定期的に見直し、必要に応じて内容を修正・更新することが大切です。例えば、年に一度、誕生日やお正月のタイミングで見直すなど、習慣化すると良いでしょう。
5.遺言書とセットで「活用」する
エンディングノートには法的な効力はありませんが、遺言書を作成する際のたたき台として非常に役立ちます。エンディングノートで自身の財産や希望を整理しておけば、スムーズに遺言書作成に進むことができます。
遺言書を作成した場合、エンディングノートに「遺言書は〇〇に保管しています」と記載しておくと、家族が遺言書の存在に気づきやすくなります。
6.「人生の羅針盤」として活用する
エンディングノートは、死後のことだけを考えるものではありません。書く過程で自己理解が深まり、「残りの人生で何を大切にしたいか」「どんな生き方をしたいか」が見えてきます。
エンディングノートを、これからの人生をより豊かに生きるための「人生の羅針盤」として活用してください。
エンディングノート作成、ここが気になる!Q&A
エンディングノートについて、よく聞かれる疑問や不安にお答えします。
Q1. 完璧に書かないと意味がないの?
A1. いいえ、そんなことはありません! 書けるところから、書きたいところから少しずつ始めて大丈夫です。空白があっても全く問題ありません。大切なのは、あなたの「想い」を書き留めることです。書きながら考えが変わることもありますし、後から追記することもできます。
Q2. 家族に見せるべき?内容は全て話さないとダメ?
A2. 必須ではありませんが、見せたり話し合ったりすることで、より効果的に活用できます。 あなたの希望を事前に共有しておくことで、家族は「あなたならこう考えるだろう」と迷うことなく、あなたの意思を尊重した行動がとれます。ただし、プライベートなことや話したくない内容を無理に公開する必要はありません。信頼できる範囲で、共有できる内容から話してみましょう。
Q3. 書くのに費用はかかる?
A3. 市販のエンディングノートを購入する場合は、ノート代(数百円〜数千円程度)がかかります。 無料でダウンロードできるテンプレートや、自治体によっては無料配布している場合もあります。高額な費用がかかるものではありません。
Q4. どこで手に入るの?
A4. 書店、ネット通販、一部の文具店などで購入できます。 また、自治体や金融機関、保険会社などが無料で配布している場合もあります。終活関連のセミナーやイベントで手に入ることもあります。
まとめ:エンディングノートは、未来のあなたと家族への温かいメッセージ
エンディングノートは、「死」という避けられない未来に備えるためのもの、という側面もありますが、それだけではありません。
これまでの人生を振り返り、自分自身と深く向き合う時間を与えてくれます。そして、残りの人生をどのように生きたいのか、どんな自分でありたいのかを考えるきっかけにもなります。
エンディングノートに綴られたあなたの言葉は、あなたが旅立った後も、残された家族にとって大切な道しるべとなり、あなたからの温かいメッセージとして、心の支えとなるでしょう。
「書かなきゃ」と気負うのではなく、「書いてみようかな」という軽い気持ちで、まずはペンをとってみてください。
未来のあなたと、そしてあなたの大切な家族のために。エンディングノートという未来への贈り物を、始めてみませんか?


コメント