【認知症対策の基礎】成年後見制度とは?知らないと後悔する、大切な家族を守るための知識

相続

「親が最近、物忘れがひどくなってきた…」「将来、自分自身のお金の管理ができなくなったらどうしよう…」

終活や相続を考える上で、多くの方が直面する不安の一つに「認知症」があります。

認知症になると、自分の財産管理や契約などが難しくなり、様々な問題が発生する可能性があります。

そんな時、大切な自分自身や家族の財産、権利、生活を守るための制度として知っておきたいのが「成年後見制度」です。

成年後見制度、名前は聞いたことがあるけれど、具体的にどんな制度なのか、いつ利用するのか、誰がどうやって手続きをするのか…よく分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

この記事では、終活・相続の観点から見た成年後見制度について、その基本的なことから、あなたが「今」知っておくべきことまで、分かりやすく丁寧にご説明します。

この記事を読めば、成年後見制度がなぜ必要なのか、どのような種類があり、どのように利用するのかが理解でき、将来への漠然とした不安が軽減され、具体的な備えを始めるきっかけになるはずです。

大切な人、そして自分自身の未来のために、ぜひ最後までお読みください。

成年後見制度とは?なぜ認知症対策に必要なの?

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方が、不利益を被らないように、家庭裁判所によって選ばれた「成年後見人等」が、その方を代理して財産管理や契約などの法律行為を行ったり、本人が行った不利益な法律行為を取り消したりすることによって、本人を保護・支援する制度です。

もう少し具体的に見ていきましょう。

判断能力が不十分になると、どんな困ったことが起きる?

例えば、認知症が進むと…

  • 預貯金の引き出しや管理ができなくなる。
  • 不動産の売却や賃貸借契約ができなくなる。
  • 介護サービスや施設入居の契約内容を理解し、判断することが難しくなる。
  • 悪質な訪問販売や電話勧誘に騙されやすくなり、高額な契約をしてしまう。
  • 相続手続きに参加できなくなる。
  • 遺産分割協議の意味が分からなくなり、不利な条件で合意してしまう。

このように、日常生活を送る上で必要な様々な法的手続きや財産管理ができなくなり、ご本人が不利益を被るリスクが非常に高まります。

家族でも勝手に財産を管理できないの?

「親子なんだから、親のお金くらい自由に管理できるだろう」と思われがちですが、原則として、家族であっても、本人(判断能力が不十分になった方)の同意なく、その財産を管理したり、本人に代わって契約をしたりすることはできません。

例えば、親御さんの入院費や介護費用を支払うために、親御さんの銀行口座からお金を引き出そうとしても、金融機関によっては本人の意思確認ができないことを理由に取引を断られることがあります。不動産の売却や相続手続きも同様です。

このような状況で、ご本人を保護し、財産を適切に管理するために法的に認められた仕組みが、成年後見制度なのです。

成年後見制度の二つの柱:法定後見制度と任意後見制度

成年後見制度には、大きく分けて二つの種類があります。

  1. 法定後見制度(判断能力が既に不十分な場合)
  2. 任意後見制度(判断能力があるうちに将来に備える場合)

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

1.法定後見制度:今、判断能力に不安がある場合に利用する制度

法定後見制度は、既に本人の判断能力が低下している場合に利用する制度です。

家庭裁判所によって、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分けられます。

  • 後見(こうけん):判断能力がほとんどない状態の方を対象とします。成年後見人が選ばれ、本人の財産に関するすべての法律行為(預貯金の管理、不動産の処分、契約締結など)を代理したり、本人が行った不利益な法律行為を取り消したりできます。また、医療や介護に関する契約、施設入居の契約など、生活・身上に関する重要な事柄についても、本人の意思を尊重しつつ、代理・同意権を行使します。
  • 保佐(ほさ):判断能力が著しく不十分な状態の方を対象とします。保佐人が選ばれ、借金、不動産の売買、訴訟行為など、民法で定められた特定の重要な法律行為について、本人の同意が必要となり、同意がない場合は保佐人が取り消すことができます。家庭裁判所の審判によって、保佐人に同意権や代理権を与えることも可能です。
  • 補助(ほじょ):判断能力が不十分な状態の方を対象とします。補助人が選ばれ、特定の法律行為(例:特定の不動産の売却、リフォーム契約など)について、家庭裁判所の審判で定められた範囲で、同意権や代理権が与えられます。他の類型に比べて、本人の判断能力の低下の程度が軽度な場合です。

どの類型になるかは、医師の診断書や家庭裁判所による調査などを踏まえて、最終的に家庭裁判所が決定します。

法定後見制度を利用するための手続き

法定後見制度を利用する場合、本人、配偶者、四親等内の親族(子、孫、兄弟姉妹、甥姪など)、または市区町村長などが、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。

申立てに必要な書類は多岐にわたり、本人の戸籍謄本、住民票、診断書、財産に関する書類(預貯金通帳のコピー、不動産の登記簿謄本など)などが必要です。申立て費用もかかります。

申立てを受けた家庭裁判所は、本人の判断能力や生活状況、財産状況などを調査し、医師の鑑定を行うこともあります。その上で、誰を成年後見人等に選任するかを決定します。

誰が成年後見人等になるの?

成年後見人等には、本人の親族が候補者として挙がることもありますが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が本人の利益を考慮して判断します。親族関係や財産状況によっては、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職や、市民後見人、社会福祉協議会などの法人が選ばれることも少なくありません。

一度選任された成年後見人等は、家庭裁判所の監督を受けながら、本人のために誠実にその職務を行います。

2.任意後見制度:将来に備えて、自分で後見人を選んでおく制度

任意後見制度は、まだ判断能力が十分にあるうちに、「将来、自分の判断能力が低下した場合に、誰に、どのような支援をお願いするか」を、自分で決めて準備しておく制度です。

この制度を利用するためには、まず、信頼できる人(任意後見受任者)と「任意後見契約」を結びます。この契約は、公正証書で作成する必要があります。

契約内容には、将来、自分が判断能力を失ったときに、任意後見受任者(将来の任意後見人)にどのような財産管理や身上監護(生活、医療、介護に関する契約など)に関する代理権を与えるかを具体的に定めます。

任意後見制度のスタート

任意後見契約を結んだだけでは、任意後見制度はスタートしません。

将来、本人の判断能力が低下した際に、本人、配偶者、四親等内の親族、または任意後見受任者が、家庭裁判所に「任意後見監督人選任の申立て」を行います。

申立てを受けた家庭裁判所は、本人の判断能力が低下していることを確認し、任意後見契約の内容をチェックした上で、任意後見人を監督する「任意後見監督人」を選任します。この任意後見監督人が選任された時点から、任意後見契約の効力が発生し、任意後見受任者は任意後見人として、契約で定められた職務を行うことになります。

任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約に基づいて適切に職務を行っているかをチェックし、家庭裁判所に報告します。これにより、任意後見人の不正を防ぎ、本人の利益が守られる仕組みになっています。

任意後見制度のメリット・デメリット

メリット:

  • 自分で後見人を選べる:最も大きなメリットです。最も信頼できる人、自分の意向を理解してくれる人に将来を託すことができます。
  • 自分で支援内容を決められる:どのような財産管理や身上監護に関する代理権を与えるかを契約で具体的に定めることができます。自分のライフスタイルや価値観に合わせたオーダーメイドの支援が可能です。
  • 手続きが比較的スムーズ:法定後見に比べて、家庭裁判所での手続きが比較的シンプルに進むことが多いです(ただし、任意後見監督人選任の申立ては必要です)。
  • 家族間の争いを予防できる:誰に任せるかを本人が決めておくことで、将来、家族間での後見人候補者を巡る争いを避けることができます。

デメリット:

  • 判断能力があるうちに準備が必要:判断能力が低下してからでは、任意後見契約を結ぶことはできません。元気なうちに将来を見据えて行動する必要があります。
  • 任意後見監督人の費用がかかる:任意後見がスタートすると、任意後見人への報酬に加え、任意後見監督人への報酬が発生します(任意後見監督人には弁護士や司法書士などの専門職が選任されることが一般的です)。
  • 任意後見人の不正リスク(監督人がチェックするが):任意後見人が誠実に職務を行うかは、任意後見監督人のチェックが入るとはいえ、ゼロリスクではありません。信頼できる人を選ぶことが極めて重要です。
  • 契約内容以外の権限はない:任意後見人の権限は、任意後見契約で定めた範囲に限られます。想定していなかった事態に対応できない可能性もゼロではありません(ただし、その場合は法定後見への切り替えも検討できます)。

法定後見制度と任意後見制度の比較

ここで、法定後見制度と任意後見制度の主な違いをまとめてみましょう。

項目 法定後見制度 任意後見制度
利用を開始するタイミング 本人の判断能力が既に低下している場合 本人の判断能力が十分にあるうちに将来に備える場合
後見人等を選ぶ人 家庭裁判所 本人(契約で指定)
後見人等の候補者 親族、専門職、市民後見人、法人など(家庭裁判所が選任) 任意後見契約で本人が指定した人(親族でも専門職でも可)
支援内容・権限 法律で定められた範囲(後見、保佐、補助の類型による)。家庭裁判所の審判で決定。 任意後見契約で本人が定めた範囲
監督者 家庭裁判所 任意後見監督人(家庭裁判所が選任)
手続き 家庭裁判所への申立て 任意後見契約の公正証書作成 → 判断能力低下後に任意後見監督人選任の申立て
費用 申立て費用、診断書・鑑定費用、後見人等への報酬(家庭裁判所が決定) 公正証書作成費用、任意後見監督人選任の申立て費用、任意後見人への報酬(契約で定める)、任意後見監督人への報酬(家庭裁判所が決定)

比較すると、任意後見制度は「自分で決められる」という点が最大の特長であり、本人の意思を尊重した柔軟な対応が可能になります。一方、法定後見制度は、既に判断能力が低下してしまった方の保護を目的としており、家庭裁判所が主導する形で進められます。

成年後見人等の具体的な仕事(職務)とは?

成年後見人等(後見人、保佐人、補助人、任意後見人)は、選任される類型や契約内容によってその権限の範囲は異なりますが、主な仕事内容は以下の2つに大きく分けられます。

  1. 財産管理
  2. 身上監護

それぞれ具体的に見ていきましょう。

1.財産管理

本人の財産(預貯金、不動産、株式、年金、保険金など)を適切に管理し、本人の生活や医療、介護に必要な費用を支払います。

  • 財産の調査・目録作成:まず、本人の財産状況を正確に把握し、財産目録を作成します。
  • 収入・支出の管理:年金収入やその他の収入を管理し、家賃、光熱費、税金、医療費、介護費などの必要な費用を支払います。
  • 預貯金の管理:本人の銀行口座を管理し、日常的な支払いや引き出しを行います。
  • 不動産の管理・処分:不動産がある場合、固定資産税の支払い、修繕の手配、必要に応じた売却や賃貸借契約などを行います(不動産の売却など重要な行為には家庭裁判所の許可が必要な場合があります)。
  • 遺産分割協議への参加:本人が相続人である場合、本人の代理として遺産分割協議に参加し、本人の法定相続分を確保します。

財産管理においては、本人の財産と後見人等自身の財産を厳格に区別し、帳簿をつけて収支を明らかにする義務があります。

2.身上監護

本人の生活、医療、介護など、本人の身体や生活に関わる事柄について、本人の意思や心身の状態、生活状況などを考慮して、適切なサービスが受けられるように支援します。

  • 住居に関する契約:施設入居の契約、賃貸住宅の契約や更新、自宅の改修に関する契約などを行います。
  • 医療・介護に関する契約:医師の説明を受けて医療行為の同意(延命治療など、本人の意思能力が残っている場合は本人の意思が優先されます)、入院・退院の手続き、介護サービスの利用契約などを行います。
  • 生活に関する手続き:住民票の異動、各種申請、サービスの利用手続きなどを行います。
  • 定期的な面会:本人の健康状態や生活状況を確認するために、定期的に本人と面会します。

ただし、身上監護はあくまで本人の「生活」や「身体」に関する法律行為に関する支援であり、本人の食事の世話や身体介護、日常的なお見舞いなどは、成年後見人等の仕事ではありません。これらは、親族や介護サービス事業者が行う役割です。

また、成年後見人等には、本人の意思決定を最大限に尊重する義務があります。本人がたとえ判断能力が不十分であっても、本人の意思や希望を聞き取り、可能な限りそれに沿った形で支援を行うことが求められます。

終活・相続において、成年後見制度はなぜ重要なのか?

終活は「人生の終わりに向けての準備」、相続は「財産を次世代に引き継ぐこと」です。

これらのプロセスにおいて、本人の判断能力が保たれていることは円滑な手続きを進める上で非常に重要です。

もし、終活の途中で本人の判断能力が低下してしまったらどうなるでしょうか?

  • 作成中の遺言書が無効になってしまう可能性がある。
  • 生前贈与や財産整理が進められなくなる。
  • 家族信託などの財産管理の仕組みを作るのが困難になる。
  • 相続が発生しても、遺産分割協議に参加できないため、成年後見制度の利用が必要となり、手続きが複雑化・長期化する可能性がある。

つまり、成年後見制度は、判断能力の低下というリスクに備え、終活や相続に関する本人の意思や計画を実行可能にするための土台となる制度なのです。

特に、任意後見制度を利用して、誰にどのような財産管理や身上監護を任せるかを元気なうちに決めておくことは、将来の自分自身の希望を実現し、残される家族の負担を減らす上で、非常に有効な終活の一つと言えます。

成年後見制度を利用する際の注意点と検討事項

成年後見制度は非常に強力な制度ですが、利用にあたってはいくつか注意点や検討すべき事項があります。

  • 一度開始すると原則として本人が死亡するまで続く:特に法定後見制度は、本人の判断能力が回復しない限り、原則として本人が亡くなるまで続きます。
  • 費用がかかる:成年後見人等への報酬や、任意後見の場合は任意後見監督人への報酬が発生します。これらの費用は本人の財産から支払われます。
  • 手続きに時間がかかる場合がある:特に法定後見制度の申立てから後見人等選任までには、家庭裁判所の調査や鑑定などが必要となるため、数ヶ月かかることもあります。
  • 本人の意思決定の尊重と本人の保護のバランス:成年後見人等は本人の意思を最大限尊重しますが、本人の財産を浪費したり、不利益な契約を締結したりするような本人の意思には従えません。本人の保護が優先される場面もあります。
  • 親族後見人の負担やリスク:親族が後見人等になった場合、財産管理や家庭裁判所への報告義務などの負担が大きい上、他の親族との関係が悪化するリスクもゼロではありません。

これらの点を踏まえ、成年後見制度を利用することが本当に本人にとって最善の方法なのか、他の選択肢(例えば、家族信託、財産管理等委任契約、見守り契約など)と比較検討することが重要です。

ただし、家族信託などは、あくまで財産管理に特化した制度であり、身上監護(医療や介護に関する契約など)を包括的に任せることはできません。この点が成年後見制度との大きな違いです。

まとめ:成年後見制度は「備え」と「保護」のセーフティネット

人生100年時代と言われる今、認知症などにより判断能力が低下する可能性は、誰にでも起こりうる身近なリスクです。

成年後見制度は、このような状況に陥った際に、大切な自分自身や家族の財産や生活を守るための、いわば「セーフティネット」となる制度です。

特に、任意後見制度は、判断能力が十分にあるうちに将来の不安を取り除き、自分の意思を反映させた支援体制を構築できる点で、非常に有効な「備え」となります。

終活や相続を考えることは、単に財産をどうするかということだけではありません。自分が自分らしく生きられる期間を長く持ち、もしもの時にも尊厳が守られるように準備することでもあります。

成年後見制度について学び、家族で話し合い、必要であれば専門家(弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士など)に相談してみることは、安心できる未来への第一歩となるはずです。

この記事が、あなたの終活・相続、そして認知症対策の一助となれば幸いです。

専門家への相談のすすめ

成年後見制度は、個々の状況によって最適な選択肢や手続きが異なります。この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別のケースに関する判断は専門家にご相談ください。

お近くの弁護士会、司法書士会、行政書士会、または市区町村の窓口や地域包括支援センターなどで相談することができます。

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