相続で慌てないために! 株式・投資信託など金融資産の「正しい評価方法」を徹底解説

相続

「相続」と聞くと、不動産や預貯金を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、近年は株式や投資信託といった「金融資産」を所有している方も増えており、相続財産に占める金融資産の割合は増加傾向にあります。

これらの金融資産は、不動産のように目に見える形がないため、どのように評価して相続税を計算すれば良いのか、あるいは相続人同士でどのように分け合えば良いのか、迷ってしまう方が少なくありません。

「親が持っていた株、これってどうすればいいの?」
「投資信託の評価額って、買った時の値段じゃないの?」

もしあなたが今、まさにこのような疑問や不安を抱えているとしたら、この記事はきっとあなたの役に立つはずです。

この記事では、株式や投資信託といった主要な金融資産の相続時の「評価方法」に焦点を当て、その基本的な考え方から具体的な計算方法、さらには知っておくべき注意点までを、分かりやすく丁寧に解説していきます。

相続は、誰にでも起こりうる人生の大きな出来事です。正しい知識を持つことで、無用なトラブルや税務上の問題を避け、円滑に進めることができます。

最後までお読みいただければ、金融資産の相続評価に関するあなたの不安はきっと軽減され、次の一歩を踏み出す自信につながるでしょう。

なぜ金融資産の「評価」が必要なの?

相続において、なぜ金融資産の「評価」が重要になるのでしょうか? 主な理由は以下の2つです。

1. 相続税の計算のため

相続税は、被相続人(亡くなった方)から相続または遺贈によって取得した財産の合計額(課税価格)に基づいて計算されます。この課税価格を算出するためには、個々の相続財産の価値を正確に評価する必要があります。株式や投資信託も、もちろん相続税の課税対象となる財産ですので、その評価額を確定させなければ、正しい相続税額を計算することができません。

2. 遺産分割のため

被相続人が遺言書を残さずに亡くなった場合、相続人全員で遺産の分け方について話し合う「遺産分割協議」を行います。この際、金融資産を含むすべての相続財産について、その価値を共有し、どのように分割するかを決定する必要があります。例えば、「長男が自宅を相続する代わりに、二男が金融資産を相続する」といった分割をする場合、それぞれの財産の評価額が分からなければ、公平な分割ができなくなってしまいます。

このように、金融資産の評価は、相続税の申告・納付、そして相続人同士での公平な遺産分割のために不可欠なプロセスなのです。

金融資産の相続評価の基本原則:評価時点はいつ?

相続財産の評価は、原則として「被相続人が亡くなった日(相続開始日)」の「時価」で行います。

これは金融資産についても同様です。つまり、相続財産に含まれる株式や投資信託は、被相続人が亡くなった日の市場価格や基準価額に基づいて評価するのが原則となります。

ただし、実際の評価にあたっては、その資産の種類によって詳細なルールが定められています。次に、主要な金融資産ごとの具体的な評価方法を見ていきましょう。

主要な金融資産の具体的な評価方法

ここでは、多くの人が保有している可能性のある「上場株式」と「投資信託」を中心に解説します。

1. 上場株式の評価方法

証券取引所に上場されている株式は、日々価格が変動しています。相続財産である上場株式の評価額は、被相続人が亡くなった日の株価を基に計算するのが原則ですが、より公平性を期すために、以下の4つの価額のうち、最も低い価額を選択できる特例があります。

上場株式の評価額:以下の4つの価額のうち、最も低い価額

  • 相続開始があった日(亡くなった日)の終値
  • 相続開始があった月の毎日の終値の月平均額
  • 相続開始があった月の前月の毎日の終値の月平均額
  • 相続開始があった月の前々月の毎日の終値の月平均額

なぜこのように複数の選択肢があるのでしょうか? これは、もし相続開始日だけが異常な高値や安値だった場合に、その日だけの価額で評価すると相続税額が不公平になる可能性があるためです。直近3ヶ月の平均を考慮に入れることで、より実態に近い価額で評価できるように配慮されています。

【評価額の調べ方】

これらの価額を調べるには、被相続人が株式を保有していた証券会社から発行される「相続開始日の残高証明書(兼相続税評価額計算書)」を取り寄せるのが最も確実です。この書類には、上記の4つの価額が計算されており、最も低い価額が「相続税評価額」として記載されています。

ご自身で調べる場合は、証券取引所のウェブサイトや経済情報サイトなどで過去の株価終値や月平均株価を調べる必要がありますが、手間がかかる上に計算間違いのリスクもあるため、専門家(税理士)に依頼するか、証券会社の残高証明書を利用するのが一般的です。

2. 非上場株式(取引相場のない株式)の評価方法

中小企業のオーナーなどが保有していることが多い非上場株式は、市場価格がないため評価が非常に複雑になります。評価方法は会社の規模や状況によって異なり、主に以下の3つの方法があります。

  • 類似業種比準価額方式:評価対象の会社と事業内容が類似している上場会社の株価や財務状況と比較して評価する方法。
  • 純資産価額方式:会社の総資産から負債を差し引いた純資産額に基づいて評価する方法。含み益のある土地などがある場合は、相続税評価額に洗い替えて計算します。
  • 配当還元方式:過去の配当実績から評価する方法。主に同族株主以外の株主(少数株主)の評価に用いられます。

通常はこれらの方法を組み合わせて評価しますが、計算方法が専門的で非常に難解です。非上場株式を相続した場合は、必ず税理士に相談するようにしてください。

3. 投資信託の評価方法

投資信託の評価は、原則として「相続開始があった日(亡くなった日)」の「基準価額」で行います。

投資信託の基準価額は、その投資信託が保有する株式や債券などの時価を基に日々算出されており、新聞の投資信託欄や運用会社のウェブサイトで確認できます。相続開始日が休場日などで基準価額が公表されていない場合は、相続開始日に最も近い日の基準価額が用いられます。

【評価額の計算】

投資信託の評価額は、以下の式で計算されます。

投資信託の評価額 = 相続開始日の基準価額 × 保有口数

例えば、相続開始日の基準価額が12,000円の投資信託を10,000口保有していた場合、評価額は 12,000円 × 10,000口 = 1億2,000万円 となります。

【注意点:購入価額との違い】

投資信託を評価する際に間違えやすいのが、「購入した時の値段」と「相続開始日の基準価額」を混同してしまうことです。相続税評価額として用いるのは、あくまで相続開始日の基準価額であり、購入時の価額は関係ありません。たとえ購入時より大きく値下がりしていたとしても、相続開始日の基準価額で評価する必要があります。

こちらも証券会社や銀行から発行される「相続開始日の残高証明書」に、評価額が記載されているので、確認するようにしましょう。

4. その他の金融資産

株式や投資信託以外にも、様々な金融資産があります。代表的なものの評価方法は以下の通りです。

  • 公社債(債券):原則として、相続開始日の市場価額等で評価します。ただし、種類によって評価方法が異なります(例:割引発行された債券は、相続開始日までの経過利子等も考慮)。
  • 証券会社の預り金:相続開始日現在の残高が評価額となります。
  • MTM口座(信用取引・先物取引など):建玉(未決済の契約)について、相続開始日現在の評価損益を計算し、他の資産や負債と合わせて評価します。損失が出ている場合は、他の相続財産から差し引くことができます。

金融資産の相続評価における注意点

金融資産の評価は、単に価額を調べるだけでなく、いくつか注意すべき点があります。

1. 評価対象となる「口座」の確認

被相続人が複数の証券会社や銀行に口座を持っている場合があります。相続財産を漏れなく評価するためには、すべての金融機関に対し、相続発生の事実を伝え、口座の有無や残高の照会を行う必要があります。

2. 配当金・分配金の取り扱い

被相続人が亡くなった後に受け取った株式の配当金や投資信託の分配金は、原則として「相続財産」ではなく、それを受け取った相続人の「一時所得」または「雑所得」として、相続人自身の所得税の確定申告が必要になる場合があります(金額による)。ただし、相続開始日以前に確定していた未受領の配当等については、相続財産に含めて評価する場合もありますので注意が必要です。

3. 特定口座・NISA口座・iDeCoはどうなる?

特定の税制優遇措置がある口座の場合、相続時の取り扱いが通常と異なります。

  • 特定口座:相続によって取得した株式や投資信託を相続人が売却した場合、被相続人の取得価額を引き継ぐことができます(「取得費加算の特例」の適用も検討)。ただし、口座自体は相続の対象にならず、被相続人の特定口座は閉鎖されます。相続人は新たに自身の口座で管理することになります。
  • NISA口座(一般NISA・つみたてNISA):NISA口座で保有していた商品は、相続によりNISAの非課税メリットは引き継がれず、課税口座に移管されます。評価額は相続開始日の時価となり、ここまでは非課税ですが、その後の運用益や売却益には課税されます。
  • iDeCo(個人型確定拠出年金):iDeCoの資産は、原則として「死亡一時金」として遺族が受け取ることになります。この死亡一時金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となりますが、一定額の非課税枠(50万円 × 法定相続人の数)があります。運用中の資産として評価されるのではなく、一時金としての取り扱いになります。

これらの口座の取り扱いは複雑なため、詳細は税理士や金融機関に確認することをお勧めします。

4. 負の財産(借入金等)との相殺

被相続人が株式投資などのために金融機関から借入れをしていた場合など、金融資産に関連する負債がある場合は、その負債額をプラスの相続財産(金融資産の評価額含む)から差し引くことができます。これにより、相続税の課税価格を減らすことが可能です。

5. 名義預金・名義株に注意

被相続人が、実際には自分の財産であるにもかかわらず、配偶者や子の名義で金融資産を管理している場合があります。これを「名義預金」「名義株」などと呼びます。税務上、こうした名義財産は実質的な所有者である被相続人の相続財産とみなされます。たとえ名義が家族になっていても、その原資が被相続人のものであると判断されれば、相続税の課税対象となりますので注意が必要です。

6. 外国株式・外国投資信託の評価

外国の証券取引所に上場している株式や、海外籍の投資信託も相続税の課税対象となります。評価は原則として相続開始日の時価(外国の市場価格)を円換算して行います。為替レートの適用や、外国の税金(源泉徴収税など)の取り扱い、さらには場合によってはその国の相続に関する手続きも必要になるため、評価・手続きともに複雑になります。国際的な相続案件に詳しい税理士に相談することが不可欠です。

専門家(税理士)に相談すべきケース

ここまで金融資産の評価方法について見てきましたが、全てを自分で完璧に行うのは難しいと感じた方もいらっしゃるかもしれません。

特に以下のようなケースでは、相続税に詳しい税理士に相談することをお勧めします。

  • 相続財産に非上場株式が含まれている場合
  • 相続財産の総額が相続税の基礎控除額を明らかに超えそうな場合(相続税の申告・納付が必要になるため)
  • 保有している金融資産の種類が多岐にわたる場合(国内外の資産、複雑な金融商品など)
  • 相続人同士で遺産分割の話し合いがまとまらない、あるいは揉める可能性がある場合(評価額を明確にして、公平な分割案を提示してもらうため)
  • 相続開始日から日が浅く、迅速な対応が必要な場合
  • 名義預金や名義株の可能性がある場合
  • 相続税の申告手続き自体に不安がある場合

税理士は、正確な財産評価はもちろん、相続税の計算、申告書の作成・提出、そして相続税を少しでも軽減するためのアドバイス(各種特例の適用など)を行うことができます。専門家のサポートを受けることで、相続に関する負担を大きく減らし、安心して手続きを進めることができるでしょう。

「終活」の視点から:遺される家族のためにできること

ここまで、相続が発生した後の金融資産の評価について解説しましたが、視点を変えて「終活」の観点から、ご自身の金融資産について準備しておけることもあります。

それは、「ご自身の金融資産について、家族が把握できるように整理しておくこと」です。

具体的には、

  • 利用している金融機関(銀行、証券会社)のリストアップ
  • 口座番号や支店名などの情報
  • 保有している金融商品の種類(株式、投資信託、債券など)
  • 証券会社などの「お客様番号」やログイン情報(エンディングノートなどに記録する場合は、情報の管理に十分注意が必要ですが、ログインIDなどは伝えておくと手続きがスムーズになる場合があります)
  • 定期的に届く取引報告書や残高証明書の保管場所

などをまとめておくと、遺された家族が相続手続きを行う際に、どこにどのような金融資産があるのかが一目で分かり、手続きをスムーズに進めることができます。

エンディングノートなどを活用して、これらの情報をまとめておくことは、まさに遺される家族への大きな配慮となります。「自分の死後、家族に迷惑をかけたくない」という思いがあるなら、ぜひ生前の整理を始めてみましょう。

まとめ:金融資産の相続評価は正確な知識と準備がカギ

株式や投資信託などの金融資産は、現代の相続において非常に重要な要素となっています。これらの金融資産を正しく評価することは、適正な相続税の計算と、相続人同士での円滑な遺産分割のために不可欠です。

上場株式は「4つの価額のうち最も低いもの」、投資信託は「相続開始日の基準価額」が評価の基本となりますが、非上場株式や複雑な金融商品、さらにはNISAやiDeCoといった特別な口座の取り扱いには専門的な知識が必要です。

評価額の算出には、証券会社などからの残高証明書が非常に役立ちます。また、相続財産に金融資産が多く含まれる場合や、評価が複雑な場合は、迷わず相続税に詳しい税理士に相談することをお勧めします。

そして何よりも、「終活」の一環として、ご自身の金融資産の情報を整理し、ご家族に分かりやすく伝えておくことが、遺された方々の負担を大きく軽減することにつながります。

この記事が、あなたの金融資産の相続評価に関する理解を深め、来るべき相続に安心して備えるための一助となれば幸いです。

相続に関してさらなる疑問や不安がある場合は、専門家への相談を検討してみてください。

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